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Nao Nakai

2022.03.12Story

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津南の水のストーリー

マット・クランパート

 現代社会は、「水」が当たり前のように使われています。人は食べ物がなくても3週間は生きられますが、水がなければ3日も持ちません。植物は成長するために水を必要とし、動物は生きるために水を必要とします。私たちだけでなく、私たちが口にする食べ物も水を必要としているのです。健康や清潔のためにも水は欠かせません。そもそも私たちの体の60パーセントは水分だといわれています。

それほど大切にもかかわらず、世界的に水不足は深刻になってきています。幸いにも日本は、水が豊かできれいな国ですが、なかでも津南町は水に恵まれた町です。ここでは、その津南と水の物語を紹介します。

ピュアミネラルウォーターの水源へ

 豊かな津南の水。それはどこから来ているのでしょうか?町の中心部を日本一の大河、信濃川が流れ、その水を使っている?いいえ違います。

 実は、津南の暮らしは、そのほとんどが天然の湧き水と井戸水に支えられています。この豊かな湧き水は、苗場山の麓に降り積もる大量の雪の恵み。津南町は、世界でも有数の豪雪地帯ですから。

 冬にたくさん降った雪は、とけて、ゆっくり大地にしみ込み、やがて湧き水となってふたたび大地を潤します。特に有名なのが、名水百選に選ばれた龍ヶ窪。古くから龍神の伝説が伝わり、雨が降ると霧が立ち込める幽玄な池です。龍ヶ窪は、1日に約4万3千トンもの水が湧き出し、池の水が1日で入れ替わるほど豊富な湧出量を誇ります。

 地中に染み込んだ水は、10年、15年の歳月を経て、不純物がほとんどない、驚くほど軟らかい水になって、私たちのもとにやってきます。このような水を自由に使えることは、津南町の人々にとって、ひそかな贅沢であり、幸せです。

水と農業の関わり

 この素晴らしいミネラルウォーターは、農業にとっても欠かせません。この地で日本一有名な魚沼産コシヒカリが栽培されているのも偶然ではないでしょう。ほかにもアスパラガス、雪下にんじん、スイートコーンなど全国的にも人気の農産物もあります。

 雪下にんじんは、その名の通り雪の下にあるにんじんです。数ヶ月もの間、3mもの雪に埋もれたまま冬を越します。そのため収穫されたにんじんは、アミノ酸が増えて臭みが減り、驚くほど甘くなります。

ジオとの関わり

 津南町は、その多くの土地を河岸段丘が占めています。河岸段丘は、4万年以上前の大地と川の動きによって形成された壮大なジオの活動の痕跡。9段にもなる河岸段丘は、日本有数の規模を誇ります。高台に広がる平坦な土地には、豊かな水が湧き出し、そのおかげで農業が盛んで、にもかかわらず洪水の心配が少なく、暮らしやすい。それゆえ、1万6千年前の縄文草創期から現代までずっと人の営みが続いてきました。それが津南という土地です。

現代における津南の水

 技術の進歩によって新たな水の利用も進められました。第二次世界大戦後、津南町は徐々に水力発電のメッカとして知られるようになっていきます。津南町にある信濃川発電所は、全国で2番目の発電量を誇り、首都圏にも電力を供給しています。COP26では、脱石炭が中心課題となり、自然エネルギーへの関心が高まっています。水力発電のようなクリーンなエネルギー源は、未来にむかって一層重要度を増していくといえるでしょう。

 そして最近は、「津南の水」がボトリングされ、日本全国、そして世界中で飲まれるようになっています。約7年前、コンビニエンスストア大手のファミリーマートにミネラルウォーターを供給するため、「クリアウォーター津南」が誕生し、現在ではファミリーマート全店舗で販売。東日本大震災後、人々が実感したのは、軟水の必要性でした。水道水が使えない非常時に粉ミルク用の軟水のニーズが高まりました。そこで、ファミリーマートは津南と提携し、津南のミネラルウォーターを全国で販売することになったのです。またその品質が評価され、日本航空(JAL)のファーストクラスでも、津南のミネラルウォーターが提供されています。

津南の水を未来に残すために

 津南にとって、水はとても大切なものなので、きれいな水を安心して飲めるようにするための取り組みも行われています。例えば、津南町はロングハイキングに最適な場所ですが、特定の保全地域には立ち入ることができない場所を設けています。ホテルも自然保護の取り組みに協力しています。ニューグリーンピア津南は、全館で湧水のみを使用し、水道水をそのまま飲むこともできます。

 将来的には、豊富な水を利用して、データセンターの拠点とすることも計画しています。サーバースペースを確保したい企業にとって、データセンターをどのように冷却するかは難しい問題ですが、多雪環境ゆえの豊かな湧き水は、彼らの選択肢のひとつになるでしょう。そう遠くない未来、豊かな天然水を有する津南町は、保全と活用、さらには革新のモデルとして注目されることになるかもしれません。

マット・クランパート

米国で生まれ、2013年に日本に移住。宮城と東京で英語教師を務めた後、教育出版社で編集者になる。2021年に新潟県に移住し、現在はデジタルマーケティング会社や日本地域おこし協力隊でライター・編集者として働く。主に日本の地方を英語圏の人に紹介する仕事をしている。

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